山口地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決 1991年12月20日
山口市観音町五番九号
原告
鈴森喬
右訴訟代理人弁護士
内山新吾
山口市中河原町六番一六号
山口地方合同庁舎二号館
山口税務署長
福田賢治
右指定代理人
大西嘉彦
同
豊田耕輔
同
武下満
同
末廣利夫
同
園部修治
同
岡田克彦
同
伊藤敏彦
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告が昭和六二年三月一三日付けで原告に対してした昭和五八年分以降の所得税の青色申告承認取消処分を取り消す。
二 被告が昭和六二年三月一四日付けでした原告の昭和五八年分所得税の更正処分のうち総所得金額が二七一万八、七九二円を超える部分、同じく昭和五九年分所得税の更正処分のうち総所得金額が二二二万三〇三三円を超える部分、同じく昭和六〇年分所得税の更正処分のうち総所得金額が二三三万一、八七六円を超える部分並びに昭和五八年分及び同五九年分の過少申告加算税賦課決定処分(ただし、うち昭和五八年分及び同五九年分の各更正処分並びに同五九年分の過少申告加算税の賦課決定処分については、平成二年三月二九日裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
第二事案の概要
本件は、被告が原告に対してなした、(一)原告の昭和五八年分以降の青色申告承認の取消処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)につき、所得税法一五〇条一項一号及び三号に該当する事由が存しないにもかかわらずなされた違法があることを理由に、(二)昭和五八年分ないし同六〇年分(以下、「本件各係争年分」という。)の所得税の更正処分並びに昭和五八年分及び同五九年分の過少申告加算税賦課決定処分(ただし、うち昭和五八年分及び同五九年分の各更正処分並びに同五九年分の過少申告加算税の賦課決定処分については、平成二年三月一九日裁決により一部取り消された後のもの。これを以下「本件課税処分」という。これに対し、右裁決前の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を「裁決前の本件課税処分」という。)につき、その手続上の要件として、被告は、<1>原告が調査に協力的で調査の進展を促していたにもかかわらず、それには答えず、調査結果の説明をせず弁明の機会を与えなかったこと、<2>推計の必要性が存在しないのに、推計課税を行ったこと、実体上の要件として、被告は、合理性のない推計課税により原告の総所得金額を過大に認定したことの各違法があることを理由に、本件青色申告承認取消処分及び本件課税処分の取消しを求めたものである。
一 争いのない事実
1 原告は、肩書住所地において木造建築工事を業として営む者であるが、本件各係争年分の所得税について、別表一ないし三(課税処分等経過表)の各「確定申告」欄記載のとおり、青色申告により確定申告をした。
2(一) 被告所部係官荒井理彰(以下「荒井係官」という。)は、昭和六一年一〇月一六日、事前の通知なく所得税調査のために原告方を訪問し、その後、同月二八日、同年一一月七日及び同月一三日にそれぞれ原告方において臨場調査を行った。これに対し、原告は、現金出納帳並びに領収書控え、請求書及び領収書等の証憑書類を提示して必要な説明を加えるなどの調査協力をした。
(二) 右臨場調査等の結果、<1>原告が備え付け、記録及び保存している帳簿は、日々の収入金額及び支払金額を記帳した帳簿(以下「本件現金出納帳」という。)のみであり、その他の売上帳、仕入帳及び経費帳等の取引を記載した会計帳簿は存在しないこと、<2>少なくとも昭和五八年分については請求書の控えが保存されていないこと、<3>昭和五八年分の本件現金出納帳には日々の現金残高が記載さていないこと、<4>本件現金出納帳には、別表四のとおり、山口銀行山口支店における原告の事業用の普通預金口座(以下「事業用預金」という。)の現金の入出金の一部が記載されていないこと、<5> 本件現金出納帳には、別表五のとおり、事業用預金に振り込まれ実際には現金で受け取らなかった収入金額が現金入金として記載されていること、<6>本件現金出納帳の残高について、右現金出納帳に初めて残高が記載された昭和五九年一月一日の一五〇万円を基に、右<4>及び<5>の事実を考慮して逆算して検討すると、別表六のとおり、日々の残高が赤字となる日があること、<7>原告の売上集計表には、原告が提示した領収書控えと対照すると、別表七1のとおりの記載漏れがあること、<8>原告が提示した一部の請求書控えと対照すると、本件現金出納帳及び売上集計表のいずれにも別表六2の収入金額が記載されていないこと、<9>昭和五九年分及び同六〇年分の本件現金出納帳に記載されている現金残高も実際の残高を記載したものではないことが判明した。
3 そこで、被告は、原告に対し、所得税法一五〇条一項一号及び三号に該当することを理由に昭和六二年三月一三日付けで本件青色申告承認取消処分をなし、また、本件各係争年分について収入金額を実額で把握することが不可能又は著しく困難であるとして、類似同業者の比率を適用して本件各係争年分の所得を算出し、同月一四日付けで別表一ないし三の各「更正」欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした(裁決前の本件課税処分)。これに対し、原告は、右各処分を不服として、昭和六二年五月七日、異議申立てをしたが、右異議申立て後三か月を経過しても異議決定がなされなかったため、昭和六二年一二月九日、国税不服審判所長に対し異議決定を経ないで審査請求をしたところ、その裁決に先立つ昭和六三年三月一六日付けで別表一及び二の「変更決定」欄記載のとおり昭和五八年分及び同五九年分の過少申告加算税賦課決定処分につき変更決定がなされ、さらに、平成二年三月二九日付けで別表一ないし三の「審査裁決」欄記載のとおり、裁決前の本件課税処分のうち昭和五八年分及び同五九年分の所得税の更正処分並びに昭和五九年分の過少申告加算税賦課決定処分の一部を取り消し、本件青色申告承認取消処分及び昭和六〇年分の所得税の更正処分に対する審査請求を棄却する旨の決定がなされ、右裁決書は、同月三〇日ころ、原告に送達された。
二 原告の主張
1 本件青色申告承認取消処分について
(一) 所得税法一五〇条一項一号の解釈としては、単に大蔵省令で定める基準に合致しないというだけでは取消事由にならず、その程度が、青色申告制度の趣旨、すなわち、申告納税制度のもとで適正な課税を実現するため正確で合理的な記帳を推進するという趣旨と相入れない程度に達しているとき初めて取消事由になると解するのが相当である。また、同条三号にいう「記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由」の解釈も、右の理由から、記載の不備の程度が青色申告制度の趣旨と相入れない程度に達して、同号に列挙している「隠ぺい」「仮装」行為と同視しうる程度の違法性を有していることを要すると解すべきである。そして、帳簿書類の備付け、記録又は保存の不備の程度が青色申告制度の趣旨と相入れない程度に達しているか否かについては実質的な判断(利益衡量)を行うべきで、その判断においては、<1>帳簿書類の備付け、記録及び保存の状況のほか、<2>右記帳等についての納税者の習熟度(どれくらい正確な記帳等を要求できたか。)、<3>青色申告承認取消しについての課税庁の一般的な運用方針と運用の実情、<4>取消処分以外の対応(指導等)によって青色申告制度の趣旨を全うするよう是正が容易にできたかどうか等の事情が考慮されるべきである。
(二) 本件においては、<1>帳簿書類の備付け、記録及び保存の状況については、個々の不備は存するものの、正確な所得を把握するという点からは必ずしも支障となるものではなく、収入金額や諸経費の意図的な脱漏とか過大な計上などの事実はないこと、<2>原告は、昭和五八年分から青色申告を始めたものであって、しかも、零細業者であるため、経理事務の経験を有する事務員等もおらず、もっぱら原告の妻が記帳等を担当しており、本件各係争年分は記帳等に習熟していない時点であったこと、<3>青色申告承認取消しの実務では、原告よりも不備の程度が重大であると思われる事案においても取消処分がなされていないこと、<4>本件においては、修正申告によって解決可能な事案であること等の諸事情を考慮すると、本件では取消事由に該当しないものである。
2 課税手続上の違法について
(一) 原告は、荒井係官の臨場調査に際して協力的な態度を示し、その間、荒井係官は、青色申告の承認取消しや更正処分の可能性については何ら言及しなかったし、また、昭和六一年一一月一三日の臨場調査以後長期に亘って山口税務署から何の連絡もなかったため、原告が二度山口税務署に電話をかけ荒井係官に対して調査の進行を催促したのに対し、荒井係官は、原告の言い分を聞く機会があることを前提とした応答をしていたにもかかわらず、同係官は、昭和六二年三月一三日、事前の連絡もなく原告の不在時に原告方を訪問し、甲一のメモを残して帰り、被告は、その翌日に裁決前の課税処分をした。このように、被告は、原告に対し、何らの弁明反論の機会を与えなかったものであり、原告が税務調査に協力的であったこと及び原告からの調査進行の催促に対する被告側の応答を考慮すると、被告による本件裁決前の課税処分は信義則に反するものである。
(二) 原告は、臨場調査の時点で甲一五(提出書類等返還のお知らせ)記載の書類を提出しており、荒井係官の質問にも率直に答える等調査に協力的であったのであるから、右提出の書類をもとにして質問検査権を適切に行使すれば実額を把握することが可能であり、本件推計課税はその必要性を欠くものである。
3 課税実体上の違法について
<1>本件においては、類似同業者の材料費率を用いて所得金額の推計がなされているが、材料費の概念自体が曖昧であるとともに、木造建築工事業者の場合、材料費の額と収入金額との間に比例関係ないし相関関係はなく、工事原価を基に収入金額を推計する方法が一般的であり、最も合理的な方法であること、<2>本件類似同業者の「材料費」の数値の中には、外注費が含まれている可能性があり、本件推計の基礎数値の正確性は何ら担保されていないこと、<3>原告は、大工工事以外の工事は外注に出しており、また、材料に主として国内産の木材を使うのでコストが割高になるという特殊事情があること等を考慮すると、被告がなした推計課税には合理性がない。
4 実額の主張
甲一五記載の資料を基にして算出すると(甲三ないし五記載のとおり)、本件各係争年分の所得金額は次のとおりとなる。
昭和五八年分 三三九万七、九五八円
昭和五九年分 四七〇万八、一三三円
昭和六〇年分 二三三万一、八七六円
三 被告の主張
1 青色申告承認取消処分について
青色申告承認の根拠としての帳簿の備付けは、原告が主張するように所得の計算に支障がないという程度では足りず、その帳簿の記載のみによって所得を把握できる程度に正確であり、形式においても正規の簿記の原則に則った整然かつ明瞭なものでなければならないところ、原告が昭和五八年分について備え付けている帳簿は本件現金出納帳のみであり、右現金出納帳は所得の基因となる一切の取引を正確に記帳しているものとは認められないから、その現金出納帳の記載のみによって所得を把握できる程度に正確であるとは到底いうことができず、また、形式においても正規の簿記の原則に則った整然かつ明瞭なものということはできず、その記載事項全体について真実性を疑うに足りる相当の理由があると認めざるを得ないから、所得税法一五〇条一項一号及び三号所定の取消事由が存在する。
2 課税手続上の適法性について
(一) 税務調査について
国税通則法二四条によれば、税務署長は、納税申告書の提出があった場合に、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等を更正することができる旨規定されているのみで、更正処分を行う前にその理由を明らかにして納税者の弁解を求むべきことや、その手続については何ら法律に定めるところがないから、本件更正処分がそのような手続なしに行われたとしても違法とはいえない。
(二) 推計の必要性について
<1> 本件現金出納帳は、昭和五八年分については日々の残高の記載がないし、昭和五九年分及び同六〇年分についても残高の記載があるものの実際の現金残高を記載したものではなく、収入金額の記載漏れがある等所得の基因となる一切の取引を正確に記載しているものではないから、その記載内容が不正確であること、<2>請求書控えが、昭和五八年分については全く保存されておらず、また、昭和五九年分及び同六〇年分については一部しか保存されていないこと、<3>給料賃金及び謝礼金ないし支払手数料の中には領収書がなく、かつ、支払先の住所氏名が不明で、その支払いの事実が確認できないものが含まれていること等の事情からして、本件各係争年分の収入金額及び必要経費を実額で把握することは不可能又は著しく困難である。
3 推計の合理性について
被告が選定した類似同業者は、機械的に抽出され、そこに恣意の介入する余地がなく、また、資料内容は正確であるから、被告の推計方法は客観的な合理性を有する。そして、被告か材料費の額を推計の基礎としたのは、本件現金出納帳等の資料によるも収入金額及び工事原価の実額で把握することができず、被告において把握できたのは材料費の額であったためである。なお、原告の主張する特殊性は、原告と類似同業者の業態を異にする事情とは認められず、推計の合理性を失わせるものではない。
4 原告の実額主張について
(一) <1>本件現金出納帳は所得の基因となる一切の取引を正確に記帳したものではないこと、<2>原告が主張する収入金額は、原告の申告に係る収入金額に被告が指摘した記載漏れの収入金額を記載した金額となっているところ、右収入金額は、原告の提示した収入金額に係る請求書控え及び領収書控えがその一部であることからして、被告が指摘した以外にも記載漏れの収入金額の存在が容易に推認されること、<3>給料賃金及び謝礼金ないし支払手数料の中には領収書がなく、かつ、支払先の住所氏名が不明で、その支払の事実が確認できないものが含まれていることから、原告の実額主張は認めることができない。
(二) 予備的主張
本件青色申告承認取消処分は適法であるから、原告は、本件各係争年分において青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている者とは認められないから、原告の右実額の主張において、本件各係争年分の事業所得金額の計算において必要経費に算入している原告の妻の青色事業専従者給与額は事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできず(所得税法五七条一項)、事業専従者控除額が必要経費とみなされることになり、(所得税法五七条二項)、また、青色申告控除額も控除することができない(租税特別措置法五七条二項)。したがって、原告が実額主張する事業所得の金額に青色事業専従者給与額及び青色申告控除額を加算し事業専従者控除額を控除すると、別表八の「差引事業所得の金額」欄のとおり、本件課税処分の額を上回ることになる。
四 争点
1 原告の帳簿書類の備付け、記録及び保存の状況等が所得税法一五〇条一項一号あるいは三号所定の青色申告承認取消事由に該当するか否か。
2 本件課税処分に先立つ税務調査において、被告所部係官が原告に対し弁解の機会を与えなかったことによる課税手続上の違法が存するか否か。
3 本件課税処分において、推計の必要性があったか否か。
4 原告主張の実額反証の成否、すなわち、被告が行った推計方法に合理性があるか否か。
5 原告の本件各係争年分の所得金額。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件青色申告承認取消処分の適法性)について
1 前記争いのない事実に、証拠(甲一五、一八、乙三の1、2、二三、証人荒井理彰、原告)を総合すると、原告は、肩書住所地で木造建築工事業を主に建築主から直接請け負う形態で営み、本件各係争年分当時においては、従業員として大工一名を雇用するとともに、右従業員の外に臨時にアルバイト等を雇用することがあり、また、原告の妻が現場での雑作業及び事業に関する記帳事務に従事していたこと、原告は、所得税につき昭和五八年分から青色申告をするようになったこと、本件各係争年分において、原告が備え付け、記録及び保存していた帳簿は本件現金出納帳のみであり、その他の売上帳、仕入帳及び経費帳等の取引を記載した会計帳簿は記帳していなかったこと、本件現金出納帳は、原告の妻が領収書等に基づいて記帳していたものの、毎日記帳していたわけではなく、一週間ないし一〇日分程度をまとめて記帳し、右記帳に際しては、実際の現金残高との照合をしていなかったこと、原告は、昭和五九年六月一三日以前の請求書控えを全く保存していないこと、原告は、請求書あるいは見積書等を発行しないで工事を請け負うことがあるとともに、仕事の紹介を受けた場合の紹介手数料あるいは従業員等の給料の支払いについては領収書を徴求していなかったこと、昭和五八年分の本件現金出納帳には日々の現金残高の記載がないこと、原告は、預金の入出金は預金通帳をみればおよそ分かるということで、現金出納帳には記載しない扱いをしていたため、昭和五八年分(及び同五九年分)の本件現金出納帳には、別表四のとおり、事業用預金の現金の入出金の一部が記載されていないこと、原告は、現金と預金の区分の必要性を理解していなかったため、昭和五八年分(及び同五九年分)の本件現金出納帳には、別表五のとおり、事業用預金に振り込まれ実際には現金で受け取らなかった収入金額が現金入金として記載されていること、原告は、事業用の現金と家事用の現金とを混然としていた等の事情により、昭和五九年当初の現金残高を正確に把握することができなかったため、繰越金額をおよその見当で一五〇万円とした結果、昭和五九年当初の一五〇万円を基にして逆算すると、別表六のとおり、昭和五八年分の日々の残高が赤字となる日があること、以上の事実が認められる。
2 ところで、青色申告者の帳簿の備付け、記録及び保存については、所得税法一四八条一項、所得税法施行規則五六条ないし六四条及び昭和四二年八月三一日大蔵省告示一一二号に規定しているところ、右各規定の趣旨は、申告納税制度が納税義務者の自主性を尊重する一方、その申告が恣意的になるおそれを避けるため、青色申告制度を設け、青色申告者に対し白色申告者にない多くの特典を与えるかわりに、会計帳簿を備え付け、所得の基因となる一切の取引を正確、組織的かつ継続的に記帳し、さらに、記帳した帳簿を保存することを義務づけて、これに基づいて申告をなさしめることによって、申告納税制度の円滑かつ適正な運用を図ることにあるということができる。
したがって、右各規定の趣旨に鑑みるならば、青色申告者の帳簿の備付け、記録及び保存は、原告の主張のように、他の資料を総合して所得金額を把握するに支障がないという程度では足りず、その帳簿の記載自体によって所得を把握できる程度に正確であり、形式においても正規の簿記の原則に則った整然かつ明瞭なものでなければならないと解するのが相当である。
しかるに、右1の認定事実によると、昭和五八年分の本件現金出納帳は、日々の残高の記載がないとともに、事業用預金の現金の入出金の一部が記載されていないものが存する一方、事業用預金口座に振り込まれ実際には現金で受け取らなかった収入金額が現金入金として記載されているなど本件現金出納帳は前記各規定に即して作成された現金出納帳ということは到底できないし、さらに、現金出納帳以外の売上帳、仕入帳及び経費帳等の取引を記載した会計帳簿は記帳していなかったことを総合勘案すると、原告は、前記各規定に従った帳簿の備付け、記録または保存を行っていないことは明らかである。加えて、前記1の認定事実によると、昭和五八年分の本件現金出納帳は、残高の記載が初めてなされた日から逆算すると、日々の残高が赤字になる日があり、また、本件現金出納帳が領収書等に基づいて記帳されたものであったとしても、そもそも原告の取引においては、請求書あるいは見積書等を発行せず、また、領収書を徴求していないものがあって、かつ、実際の現金残高との照合もしていなかったのであるから、本件現金出納帳の記載事項全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるといわざるを得ない。
これに対し、原告は、帳簿書類の備付け、記録及び保存状況のほかに、<1>右記帳等についての納税者の習熟度、<2>青色申告承認取消についての課税庁の一般的な運用方針と運用の実情、<3>取消処分以外の対応によって青色申告制度の趣旨を全うするよう是正が容易にできたかどうか等の事情が考慮されるべきである旨主張するので検討するに、前記説示のとおり、青色申告制度においては、青色申告者に対し白色申告者にない多くの特典を与えるかわりに、会計帳簿の備付け等を義務づけたものであって、青色申告者が右特典を受けるには右義務を果たすことは当然の前提であるから、申告者は記帳等に習熟しなければならないのであって、青色申告承認を取り消すか否かにおいて、青色申告を始めたばかりであって記帳等に習熟していないことを過大に考慮することは相当ではなく、また、青色申告承認取消処分が必ずしも形式的に帳簿の備付けの不備等により、青色申告承認取消処分がなされていない実情があった(甲一七、証人藤島公平)としても、証人藤島の指摘するような本件以外の事案の取り扱い等については、必ずしも各事案の特殊性までも窺い知ることができず、本件と同一事情にあるとは認め難いこと等を総合勘案すると、原告主張の諸事情に配慮したとしても、前記認定のような原告の帳簿の備付け等の不備の事情に鑑みるならば、本件青色申告承認取消処分が違法であるとまではいえないと解するのが相当である。
したがって、被告が所得税法一五〇条一項一号及び三号に基づき昭和五八年に遡って青色申告承認を取り消した本件青色申告承認取消処分は適法である。
二 争点2(本件課税手続の適法性)について
1 前記争いのない事実に、証拠(甲一、一八、乙二三、証人荒井理彰、証人藤島公平、原告、弁論の全趣旨)を総合すると、以下の事実が認められる。
(一) 荒井係官は、原告の所得税の調査を実施することになり、昭和六一年一〇月一六日、事前の連絡なしに原告方に臨場したが、原告が不在であったため、税務調査に着手しないで辞去した。
(二) そこで、荒井係官は、同月二八日、再び原告方に臨場して原告に対し、本件各係争年分の調査をする旨告げた上で調査を開始し、原告からその事業形態及び備え付けている帳簿の記帳状況の説明並びに本件現金出納帳、売上集計表、仕入集計表、経費明細書及び証憑書類の提示を受けた。
(三) 次に、荒井係官は、同年一一月七日、田中大志事務官とともに原告方に臨場し、帳簿書類の調査、主に収入金額、預金及び借入金の状況について調査を行った。
(四) そして、荒井係官は、同月一三日、原告方に臨場して原告に対し、それまでの調査結果に基づき不明な点につき質問を行った。
(五) 右調査過程において、荒井係官は、原告に対し、同人が提示した資料等を基にして、昭和五八年分の本件現金出納帳に日々の残高の記載がされていないこと、昭和五九年分以降の本件現金出納帳に記載されている日々の残高についても、現金収入の計上漏れ等により実際の残高と異なったところがあること、預金通帳と対比して、本件現金出納帳に事業用預金に振り込まれ実際には現金で受け取らなかった現金が現金収入として記載されていること、昭和五九年当初の残高から逆算すると、昭和五八年分の日々の残高が赤字になる日があること、昭和五八年分の売上集計表には収入金額の記載漏れがあること、昭和五九年分の現金出納帳及び売上集計表には収入金額の記載漏れがあることなどの点を指摘したが、その際、青色申告の承認が取り消される可能性がある等までの指摘はしなかった。
(六) 原告は、昭和六一年一一月一三日の臨場調査の後、荒井係官から何の連絡もないので、昭和六二年一月一六日、調査の進捗状況を尋ねるために山口税務署に電話をかけ、さらに、同年二月初旬ころ、再度、山口税務署に電話をかけたが、これに対し、荒井係官は、調査結果が判明したら連絡する旨の応答をした。
(七) その後、被告は、昭和六二年三月一三日午前中、原告に対し本件青色申告承認取消処分の通知をなし、また、荒井係官は、右同日午後六時ころ、税務調査の結果を説明するために原告方に臨場したが、原告が不在であったため、午後七時三〇分ころまで待ったものの、原告が帰宅しなかったので、原告の妻に対し、調査結果に基づく本件各係争年分の算出所得金額及び右の調査結果についての原告の意思を翌日午前八時三〇分までに荒井係官宛に連絡して欲しい旨、もし、何ら連絡がないときは税務署の方針で更正することとなることを伝え、その旨を記載したメモ(甲一)を右妻に託して辞去しようとしたが、右妻が原告が不在であることを理由に右メモを預かることを拒否したので、荒井係官は、やむなく右メモを原告方のポストに入れて辞去した。
(八) そして、荒井係官は、翌一四日午前九時ころ、原告から連絡がないので同人方に再度臨場したが、原告が同日早朝に出掛けていたため会うことができず、その結果、原告に対する調査結果の説明や同人の意思の確認をすることができないまま、裁決前の本件課税処分の通知をした。
2 以上の事実を認めることができるところ、税務調査が完了し、納税者の申告が不適正なものであることが判明したときにも、更正処分をする前に納税者に調査の結果を説明し、自己の意思で修正申告するかどうかなどの意思決定の機会を与えることは、自主的な納税態度を確保する観点からも望ましいことに徴すると、荒井係官が税務調査過程において、原告に前記(五)のような指摘をし、また、税務調査の結果を説明するために原告方に臨場したというものの、右臨場した日が裁決前の本件課税処分を通知した日の前日であって、しかも原告が不在であったことからすると、右調査結果を検討し、原告の意思を表明するための猶予期間としては極めて短期間であったといわざるを得ず、右のような取扱いは、実質的に調査の結果を説明し、弁明の機会を与えたことにならないいささか妥当性を欠くものであると指摘されてもやむを得ない(もっとも、原告の妻は荒井係官からの伝言を聞き、また、メモを見る機会があったのであるから、これを了知した上で原告に連絡をすることも可能であったことからすると、この点に原告側の落ち度があったともいえる。)が、更正処分をするに際して、処分者に対し弁明反論の機会を与えるべきことやその手続については何ら法律に規定されていないことからして、被告が原告に対し実質的に弁明反論の機会を与えなかったとしても、右の事由により本件課税処分が違法であるとまではいえない。
三 争点3(推計の必要性)について
前記争いのない事実及び前記一1の認定事実に、証拠(甲一五、一八、乙一、二三、証人荒井理彰、原告)を総合すると、本件現金出納帳においては、昭和五八年分につき日々の残高の記載がなく、昭和五九年分及び同六〇年分については、日々の現金残高の記載があるものの、昭和五九年当初の現金残高がおよその検討でなされたものであり、また、実際の現金残高と照合したものではないから、右の記録も実際の現金残高とはいえないこと、請求書控えにつき、昭和五八年分は全く保存されておらず、請求書あるいは見積書等を発行しないで工事を請け負うことがある等の事情から、昭和五九年分及び同六〇年分は一部しか保存されていないこと、原告は、仕事の紹介を受けた場合の紹介手数料につき領収書を徴求していなかったこと、従業員等の給料の支払については領収書を徴求しておらず、原告が提示した本件各係争年分の給与・賃金に係る仕切書及び昭和六〇年分の出面帳によっても、その支払先が確認できないものがあったことが認められる。
右の認定事実によると、本件各係争年分いずれにおいても、原告の収入金額及び必要経費を実額で把握することは著しく困難であると解するのが相当であるから、本件課税処分につき推計の必要性があると認める。
四 争点4(推計の合理性)について
被告は、原告の所得金額を類似同業者の材料費率(収入金額に対する材料費の額の割合)及び所得率(収入金額に対する算出所得金額の割合)により推計する方法を主張するので、右推計方法の合理性につき判断する。
1 証拠(乙五、六の1ないし3、七の1ないし3、八の1ないし3、九の1ないし3、証人大里裕)を総合すると、広島国税局長から山口、宇部、防府、徳山、厚狭及び萩の各税務署長に対し、各税務署管内において木造建築工事業を営む個人のうち昭和五八年ないし同六〇年分(本件各係争年分)までの所得税の確定申告について、青色申告の承認を受け、青色申告書を提出している者で、<1>本件各係争年分に相当する期間の中途において、開廃業、休業又は業態を変更した者及び更正又は決定処分がなされている場合にはそれに対する不服申立てのおそれがあるなど所得金額等に争いの余地のある者を除き、右期間を通じて営業を行っていること、<2>主として建築主から直接に請け負っていること、<3>被告が反面調査して把握した原告の本件各係争年分のそれぞれの材料費の額のほぼ二分の一ないし二倍の範囲内にあること、<4>従業員数(事業主を含む。)が本件各係争年分とも二ないし六名で、その内に青色事業専従者が含まれていることの条件に該当する者について、本件各係争年分に対応する収入金額、材料費の額(ただし、原価計算を行っている者については決算書等の製造原価の計算の「原材料費」欄の「差引原材料費」欄の金額を記載し、原価計算を行っていない者については決算書等の「売上原価」欄の「差引原価」欄の金額を記載することとされている。)、材料費率、経費(なお、決算書等の「売上原価」欄及び「経費」欄の金額の合計額から右材料費の額を控除した金額を記載することとされている。)、所得金額及び所得率の報告を求める通達が発せられたこと(乙五)、これに対し、右条件に該当する者として、山口税務署長から三名、宇部税務署長から三名、防府税務署長から二名、徳山税務署長から一名の各類似同業者(以下「本件類似同業者」という。)に関する右各項目についての報告があったこと(乙六の1ないし3、七の1ないし3、八の1ないし3、九の1ないし3)が認められる。
右の認定事実に前記一1の認定事実によると、原告の事業形態が木造建築工事業で主に建築主から直接請け負うものであること、原告の従業員は、本件各係争年分に相当する期間において、事業主である原告、大工一名及び青色事業専従者である原告の妻であること、本件類似同業者が主として建築主から直接に請け負っている木造建築業者であって、その材料費の額は、被告が反面調査により把握した原告の材料費の額の二分の一ないし二倍の範囲内であること、材料費の額と収入金額の間に相関関係を否定することはできないことからすると、原告と本件類似同業者の営業形態及び営業規模の類似性から、被告が行った本件類似同業者の選択の相当性及び原告との類似性を肯定することができ、また、右類似同業者は帳簿の記載等を義務づけられている青色申告者であるから、その申告の数値は一応正確なものと推認されるので、右類似同業者の申告金額を基に原告の所得金額を推計する方法は合理性を有するものということができる。
なお、原告は、木造建築業者の場合、工事原価を基に収入金額を推計する方法が一般的であり、最も合理的な方法である旨主張するが、原告は原価計算を行っていない(証人大里裕)ため、経費について工事原価に係る経費とそれ以外の経費に区分することができないこと、前記三の認定事実によると、給料賃金についてその支払先を確認できないものがあったことからすると、原告の工事原価を実額で把握することはできなかったものといえるから、右主張は採用できない。
また、原告は、本件類似同業者の「材料費」の数値の中に外注費が含まれている可能性がある旨主張するが、建築業者においては、工事の一部を外注に出す場合も存するが、右外注費が材料費に計上された場合には、材料費が極めて大きな金額となることから、前記の各税務署長の報告の際にその事実が判明し、それを是正することができること(証人大里裕)からして、本件類似同業者の材料費の数値には外注費は含まれていないと推認するのが相当であり、原告の右主張は理由がない。
さらに、原告は、大工工事以外の工事は外注に出しており、また、材料に主として国内産の木材を使用するのでコストが割高になる旨主張するが、前記認定のとおり、本件類似同業者は原告と営業規模が類似しており、右のような規模の木造建築業者については、工事の一部を外注に出すことは少なからずあると推認することができる(弁論の全趣旨)とともに、材料に国内産の木材を使用する場合には、請負単価もそれに応じて高くなるのが通常であること(弁論の全趣旨)からすると、原告主張の特殊事情は本件類似同業者による推計値を不合理ならしめる程度に顕著なものとはいえず、原告の右主張も理由がない。
2 原告の実額の主張について
原告は、甲一五記載の資料を基にして、被告あるいは裁決において指摘された売上計上漏れのあった収入につき訂正するなどして、本件各係争年分の所得を甲三ないし五記載のとおり算出して実額による所得金額を主張するので、次に検討する。
前記三の認定のとおり、本件現金出納帳には不備があるとともに、本件各係争年分について、請求書の控えがすべて保存されているわけではなく、殊に原告は請求書あるいは見積書等を発行しないで工事を請け負うことがあることからすると、収入金額が原告の主張するように被告あるいは裁決において指摘された売上計上漏れに尽きると認めることはできないこと、また、同様に前記三の認定のとおり、紹介手数料につき領収書がなく、給料についてもその支払先に不明なものがある以上、その経費についても実額であるとは認めることができないこと等の事情を総合勘案すると、原告の実額の主張は採用し難く、被告のした推計の合理性を左右するものではない。
五 争点5(本件各係争年分の所得金額)について
1 証拠(乙六の1ないし3、七の1ないし3、八の1ないし3、九の1ないし3)によると、昭和五八年分の本件類似同業者の平均材料費率は二八・一パーセント、同平均算出所得率は一三・六パーセント、同五九年分の平均材料費率は二六・六パーセント、同平均算出所得率は一五・〇パーセント、同六〇年分の平均材料費率は二五・九パーセント、同平均算出所得率は一三・一パーセントであることが認められる(なお、いずれも原告に有利になるように考慮して、平均材料費率については小数点第二位以下を四捨五入し、平均算出所得率については小数点第二位以下を切り捨てて算出した。)。
2 昭和五八年分について
(一) 材料費の額
証拠(乙一、一〇ないし一二、一三の1、2、一四、一七、一八の1、二三、弁論の全趣旨)によると、材料仕入金額は、別表九(原告の材料仕入金額の明細表)の「昭和五八年分」欄記載のとおり、九八七万五、九二九円であることが認められる(なお、被告は山口合同ガス株式会社からの材料仕入額を二万三、八〇〇円である旨主張するが、乙一七によると、右金額から繰越金八、〇〇〇円を控除すべきであるから、一万五、八〇〇円であると認められる。)。
材料費の額は、材料仕入金額に期首棚卸金額を加算し、期末棚卸金額を控除して求められるものであるが、原告は、期首及び期末の棚卸金額に関する資料を提出しないこと、また、本件各係争年分の期首及び期末棚卸金額が著しく異なる事情はないこと(乙二四)から、本件各係争年分の期首及び期末の棚卸金額は等しいものとして、材料仕入金額をもって材料費の額とすることには一応の合理性が認められる。
したがって、昭和五八年分の材料費の額は九八七万五、九二九円と認めるのが相当である。
(二) 収入金額
右材料費の額に、前記1の昭和五八年分の本件類似同業者の平均材料費率を適用して収入金額を算出すると、次のとおり、三、五一四万五、六五四円となる。
九八七万五、九二九円÷〇・二八一=三、五一四万五、六五四円(円未満切捨て。以下同様。)
(三) 算出所得金額
右収入金額に、前記1の昭和五八年分の本件類似同業者の平均算出所得率を適用して算出所得額を算出すると、次のとおり、四七七万九、八〇八円となる。
三、五一四万五、六四五円×〇・一三六=四七七万九、八〇八円
(四) 事業専従者控除額
原告の妻に係る事業専従者控除額は四〇万円であると認められる(弁論の全趣旨)。
(五) 所得金額
以上によると、原告の昭和五八年分の所得金額は、右(三)の算出所得金額から右(四)の金額を控除した四三七万九、八〇八円となる。
2 昭和五九年分
(一) 材料費の額
証拠(乙一、一〇いし一二、一三の1、2、一四、一五、一七、一八の2ないし4、二三、弁論の全趣旨)によると、材料仕入金額は、別表九の「昭和五九年分」欄記載のとおり、一、三三一万二、〇〇九円であることが認められる。
材料費の額は、前記一1の説示と同様に、期首及び期末の棚卸金額は等しいものと推認し、昭和五九年分の材料費の額は右材料仕入金額の一、三三一万二、〇〇九円と認めるのが相当である。
(二) 収入金額
右材料費の額に、前記1の昭和五九年分の本件類似同業者の平均材料費率を適用して収入金額を算出すると、次のとおり、五、〇〇四万五、一四六円となる。
一、三三一万二、〇〇九円÷〇・二六六=五、〇〇四万五、一四六円
(三) 算出所得金額
右収入金額に、前記1の昭和五九年分の本件類似同業者の平均算出所得率を適用して算出所得額を算出すると、次のとおり、七五〇万六、七七一円となる。
五、〇〇四万五、一四六円×〇・一五〇=七五〇万六、七七一円
(四) 事業専従者控除額
原告の妻に係る事業専従者控除額は四五万円であると認められる(弁論の全趣旨)。
(五) 所得金額
以上によると、原告の昭和五九年分の所得金額は、右(三)の算出所得金額から右(四)の金額を控除した七〇五万六、七七一円となる。
3 昭和六〇年分
(一) 材料費の額
証拠(乙一、一〇ないし一二、一三の1、2、一四ないし一七、一八の5ないし8、二三、弁論の全趣旨)によると、材料仕入金額は、別表九の「昭和六〇年分」欄記載のとおり、七四六万五、一四五円であることが認められる。
材料費の額は、前記一1の説示と同様に、期首及び期末の棚卸金額は等しいものと推認し、昭和六〇年分の材料費の額は右材料仕入金額の七四六万五、一四五円と認めるのが相当である。
(二) 収入金額
右材料費の額に、前記1の昭和六〇年分の本件類似同業者の平均材料費率を適用して収入金額を算出すると、次のとおり、二、八八二万二、九五三円となる。
七四六万五、一四五円÷〇・二五九=二、八八二万二、九五三円
(三) 算出所得金額
右収入金額に、前記1の昭和六〇年分の本件類似同業者の平均算出所得率を適用して算出所得額を算出すると、次のとおり、三七七万五、八〇六円となる。
二、八八二万二、九五三円×〇・一三一=三七七万五、八〇六円
(四) 事業専従者控除額
原告の妻に係る事業専従者控除額は四五万円であると認められる(弁論の全趣旨)。
(五) 所得金額
以上によると、原告の昭和六〇年分の所得金額は、右(三)の算出所得金額から右(四)の金額を控除したものであって、三三二万五、八〇六円となる。
4 右1ないし3の認定説示によると、本件課税処分のうち更正処分の金額(裁決による一部取り消された後のもの)は、本件各係争年分とも原告の所得金額の範囲でなされたものであるから、右更正処分はいずれも適法である。
5 過少申告加算税賦課決定処分について
(一) 昭和五八年分の過少申告加算税賦課決定処分
昭和五八年分の過少申告加算税賦課決定処分については、前記争いのない事実のとおり、全部を取り消す旨の変更決定がなされている。
(二) 昭和五九年分の過少申告加算税賦課決定処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)
右4の認定説示のとおり、本件課税処分のうち更正処分はいずれも適法であるところ、右更正処分の基礎となった事実のうち、本件青色申告承認取消処分がなされたことにより所得金額の計算に当たり加算することになる青色事業専従者給与の額と事業専従者控除額との差額及び青色申告控除額に相当する部分については、昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条四項に規定されている「計算の基礎とされていなかったことにつき正当な理由」があると認められるが、その余の部分については、右正当な理由を認めるに足りる証拠はないから、本件課税処分のうち昭和五九年分の過少申告加算税賦課決定額(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)は、右国税通則法六五条一項の規定に基づく過少申告加算税の範囲内であるから、右過少申告加算税賦課決定処分も適法である。
六 以上の次第で、本件青色申告承認取消処分及び本件課税処分はいずれも適法であるから、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 内藤紘二 裁判官 橋本眞一)
別表一
課税処分等経過表(昭和五八年分)
<省略>
別表二
課税処分等経過表(昭和五九年分)
<省略>
別表三
課税処分等経過表(昭和六〇年分)
<省略>
別表四
一 現金預入額の記載漏れ
1 昭和五八年
<省略>
2 昭和五九年
<省略>
二 現金引出額の記載漏れ
1 昭和五八年分
<省略>
2 昭和五九年
<省略>
別表五
一 昭和五八年
<省略>
二 昭和五九年
<省略>
別表六
<省略>
別表七
一
<省略>
二
<省略>
別表八
原告の実額主張に係る事業所得の金額
<省略>
別表九
原告の材料仕入金額の明細表
<省略>